トロイのヘレンも掘りとったという、エレカンペーン

このキク科のハーブ、エレカンペーンは、根に独特の香りと苦みがあり、古代ギリシャ・ローマ時代から、薬用ハーブとして使用されます。

南側に植えてある、エレカンペーンが咲き始めました。
多年草ですので、毎年楽しめる花です。
このハーブを生活に取り入れたシーンを初めて見たのは、1986年のイギリス・ハーブの旅で、ケント州のアイホーン・マナーという館を訪問した時のことでした。
ご夫妻で迎えて下さり、15世紀の初めに建てられたこの家を買い取り、内外をそれにふさわしい状態に改装したというその家のすみずみまで案内してくださったのでした。
部屋のどこにも庭から摘んだハーブや花で作ったポプリが飾られ、奥様手作りのキルトや刺繍飾りがありました。暖炉の横には火種にするためのハーブの小枝が大きな木の箱にどっさり入れられて、色が変化した枝の上に置かれた、朝摘んでおいたばかりのような緑色とのバランスにもどれほど感動したことでしょう。それらすべてが、その後の私の生活スタイルに大きな影響を与えたのでした。
ある部屋の窓辺に、リンゴの皮を厚くむいたみたいなものがつるさがっていました。
「これは何でしょう?」とお聞きすると、
「エレカンペーンですよ。良い香りがするのよ」とのこと。
生の根はバナナの香りがするといわれるこのハーブです。

この館訪問の写真をお送りした時、ご主人からの手紙は妻が急死したというショックのものでした。その後ご主人は悲しさのあまり、アイホーン・マナーをそっくり売って出て行ってしまった・・・
もう見ることのないアイホーン・マナー。
私の想い出にある館のあの素敵な場面は、繰り返し、私の中で蘇ります。

ところでエレカンペーンの学名はイヌラ・ヘリニウムといいますが、『ハーブの写真図鑑』(レズリーブレムネス著)によると、ヘリニウムは、このハーブを採っていた時に誘拐されたトロイのヘレンが語源とのことです。興味深いことですね。